約 1,077,076 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1913.html
「うわー、浮いた!」 「浮いてるんじゃないんだ、スタンドが手にとって持ち上げてるだけで」 「詠唱無しで浮かせられるのかい?なんでも?!」 「話を聞け!無視するな!」 『何も物が動かない』世界そのものよりも、ただ『物が動く』だけに酷く興味を示すギーシュ。 否、ただ動かすだけなら彼にだって出来るのだろう、ただその物体が どの方向へ、何のためにだとか言う秩序を持たずふわりと浮き上がったのが面白いらしい。 オレはマン・イン・ザ・ミラーに『そこの造花を手に取れ』と命じただけで、 それをその後どうしろだとかは特に注文をつけていなかった。 マン・イン・ザ・ミラーは造花を手に取り注意深く覗き込んだ後、それに向かって手を伸ばしたギーシュから ひょいと造花を遠ざけて、暫く手を止めた後に俺の傍らに置いた。 「その『スタンド』っていうのは、魔法が意思を持ったようなものかい?」 「さあ?意思があるかは良くわからない。見るからに自由意志を持ってべらべら喋る奴もいるし、 本体の意思をそのまま口に出しているだけの奴もいる。分身みたいに動くんだ。 逆に意思なんて持ちようも無い形をしてるのもある。本体の言う事を聞くのだけは確かかと思ったら、そうで無い奴もいる。」 「結局何なんだい?」 「さあ。オレが知りたいくらいだ。」 ギーシュはマン・イン・ザ・ミラーを目で追う。と言っても、『ここに居るんじゃあないか』と推測して見ているだけだから どうもずれた場所を凝視していて、『マン・イン・ザ・ミラー』の方からギーシュの視線にあわせて動いた。 「使い魔と魔法をごったにしたみたいだ」 「『使い魔』ね・・・・そんな感じもするな。それで」 魔法の方は見せてくれないのか?というと、杖を手に取らなければ無理だと返ってきた。 なんと面倒くさい。鏡が無けりゃ何も出来ないと少し自信喪失していたが、それも吹っ飛ぶようだった。 そんな明確すぎる弱点をぶら下げてメイジって奴らは何故平気な顔をしているんだ? 『マン・イン・ザ・ミラー』のがずっとマシだ。鏡が無くてもぶん殴れるからな。 「じゃあ、ちょっと『マン・イン・ザ・ミラー』、洗面所までもってって・・・・よし、『許可』しろ。これでどうだ?」 ふわふわと鏡の前から返ってきた造花は、なんとなく冷え切っていた先ほどとは違って 造花なりに生き生きと色を取り戻していた。 「おお、触れるようになってる。」 「外のそいつを鏡の中に持ってきたんだ。そいつは『本物』だ。」 「さっきのは?」 「『鏡に映った造花』だから、外側だけだな。見た目以上の意味はもって無いから、電化製品なんかは許可しないと動かない」 「デンカ・・・・?何?」 「気にするな、ほら」 何かやって見せろよ、と言うとギーシュは『錬金』を唱えて衣服のボタンを別の金属に変えた。 モンモランシーは、自分の頭がおかしくなったのかと思った。 無用心に開け放されたギーシュの部屋を覗いたところ、人っ子一人いないと言うのに 部屋中に転がるギーシュの私物が出たり消えたり浮いたり落ちたり、ポルターガイストだってもう少し大人しいだろうと言う お祭り騒ぎが現在進行中なのだ。 (『鏡の中』で男二人が自分の特技を見せ合って、ギーシュが『青銅製の鏡』を作り出した辺りで オレ達が組んだら結構強いんじゃあないか?とテンションを上げているのをモンモランシーは知らない。) 「どうしたの?モンモランシー。中へ入らないの?」 「ルイズ・・・・」 イルーゾォ捜索は、まだ続いていた。『犯人は現場に帰ってくる』という根拠の無い定説に基づき、 何故かモンモランシーを筆頭に少女四人はギーシュの部屋を訪れる。 タバサは『勝手に帰ってくる』と結論付けたものの、モンモランシーの方では自分の恋人を半殺しにした薄気味悪い使い魔を信用できなかったし、 ルイズだって「そう、じゃあ勝手に帰ってくるまで待つか」という訳にもいかなかった。 使い魔を自分の思い通りに出来ないんじゃあ当面『ゼロ』は払拭できそうに無いし、 それに、一人の人間として、きちんとイルーゾォの事を判りたい。そう思ったのだ。 「あたしもね、ダーリンと一対一で語らい合いたいわ。まだお互いの事を知らなさ過ぎるもの・・・・」 何故こうも意味合いが違って聞こえるのか知らないが、要するにキュルケもまた、待つだけなんか性に合わないのだ。 「放っておけばいいのに」 タバサだけが、少しイルーゾォに同情する調子で呟いた。 「ルイズ・・・・貴方も?その、部屋が変になってる。私だけじゃない?」 「・・・・・・・・っ!」 ルイズは、自分の頭がおか(ry 「な、何これ?!何が起こってるの?」 「『消失』・・・・」 タバサが、やはりそうかと言うように呟く。 「イルーゾォ、居る。ギーシュも・・・・ずっと居た。」 ルイズは思考を巡らす。 そもそも、イルーゾォが忽然と『消え』、再び『現れる』事は誰しもが知っていた。 目にとまるのはその『消え』『現れる』一瞬の事象ばかりで、『消えている』間一体何処に居るのだろうとか、そんな事は考えもしなかった・・・・ 「透明になってるだけ、って事?」 「違う。透明になるだけなら、現れる必要は無い。ずっと透明で居るだけで安全・・・・」 タバサは言い終わらないうちに、手に持っていた本を思い切り投げた。 「何?!」 デスクから人一人分の余裕を持って引かれた椅子の上、『人が座っていて不思議じゃない』その場所をめがけ本は飛んで行き、 そして『叩き落とされた』。 「どんな仕組みかは、彼に聞けばいい。ルイズ、頑張って。」 タバサに背中を押される。ううん、やっぱり良くわからないけれど。私に何か出来る事があるの・・・・? 部屋に一歩足を踏み入れ、良くわからないうちに杖をぎゅっと握る。 何も無いはずの空間がぴりりと、私を警戒した。 「うわっ、何あれ?」 ギーシュが驚いたようにドアを指差す。 音も無く開いたドアから勢い良く分厚い本が飛んできた。 咄嗟に『マン・イン・ザ・ミラー』が叩き落とすが、軽率だったかもしれない。 堰を切ったように部屋中の小物が渦を巻いて暴れだし(まだ日中だぞ。ポルターガイストだってもうちょっと大人しいだろう) 『マン・イン・ザ・ミラー』はオレにぶつかりそうになる幾つかを忙しく叩き落とす。 「おいギーシュ!こりゃ何だ?さっきの『レビテーション』か?」 「いや、タバサの杖がある、多分風の魔法だと思う!部屋の中で風が起きてるんだ!!」 部屋に4本の杖が浮いている。一つは目に見えてメガネ女のものだとわかるが、残りは区別がつかない。 花瓶だの万年筆だのの直撃を食らって悲鳴を上げるギーシュを尻目に、 先ほど奴が作り出した鏡を『マン・イン・ザ・ミラー』が持って駆ける。 『外』では空中を落下する鏡に映る、一つだけ明らかにデカい杖に『マン・イン・ザ・ミラー』が手を伸ばす―――― 「『マン・イン・ザ・ミラー』、杖を『許可』しろ!杖だけだ!」 やはりと言うか杖さえ取り上げれば異変は収まり、 しかしそれは『先ほどの旋風はオレにとって危険だった』と教えてしまったことにもなる。 それだけじゃない―――― 空中で少女四人を睨み付けていた鏡が、破片も残さず弾け飛んだ。 ほら見たことか、嫌な予感がした!『ゼロ』の爆発はオレにとって危険なものだ! 多少砕けるならばむしろ有利なぐらいだが、『無くなってしまう』なら訳が違う。 鏡が無ければオレは無力だ!そして何より、たった今証明された・・・・『マン・イン・ザ・ミラー』と『爆発』、俊敏性と射程が段違いだッ! このままじゃあ・・・・・・・・! 「ギーシュ!洗面台行――――」 瞬間、世界が裏返るような浮遊感と共に背景が瞬き、「やっぱり『鏡』に関係しているようね!」と勝ち誇った声が振ってくる。 ルイズだ――――やはり気づかれていた――――存外に恐ろしいぞ、『爆発』ってモノは。 この短時間に、『マン・イン・ザ・ミラー』の射程内の鏡を、片っ端から吹っ飛ばしたって言うのか? (正確には、何も『爆発』で鏡を消失させずとも、初歩の錬金で一時的に鏡に成り得ない物質に変えればいいだけなのだ。 ギーシュの部屋以外には迷惑がかかるだろうと、キュルケ・タバサ両名が錬金をかけた。) 『鏡の世界』は勿論鏡が無ければ維持できず、射程内に鏡が無くなったせいで反転世界は霧散し放り出された先は『現実』だ。 こんな事態は初めてで、ぐにゃりと歪んだ空間を見たときは胃が裏返るかと思った。 「もう逃げようなんて考えない事ね!」 ルイズに杖を突きつけられて――――向けんな、頼むから。爆発したくない――――観念する他無いようだ。 絶対安全で最良のスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』・・・・『魔法』なんてものの存在で、オレの取り戻しかけてた自信は見事粉砕されるハメになる。 ①現実と鏡の世界で物体は同じように動く ②鏡の世界で物体を動かせるのはマンミラのみ ③引き込むにはマンミラが触れる必要あり ④衣服は身につけている者が『自分の体の一部』と思える範疇まで。 ポケットの中身はおk、本やカバンは駄目。襟元でイガイガして気になる洋服のタグとかも駄目。 他に魔法については原作のパープルヘイズの時のイメージで 鏡の外で発生する『事にしてある』。注釈が多くてゴメン。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1855.html
プロローグ 第一話 サーレーのトリステン逃避行 第二話 サーレーの受難と魔法少女 第三話 使い魔サーレーと黒髪メイド 第四話 サーレー君とボーンナムくんよ:前章 卑屈さと誇りと傲慢 第五話 サーレー君とボーンナム君よ:中章 固定と風と土と(前編) 第五話 サーレー君とボーンナム君よ:中章 固定と風と土と(後編)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/821.html
第1章 前編 「あんた誰?」 値踏みするように、自分を覗き込む少女が問いかける。 …君こそ誰だ? ここはどこだ? 体を起こし、質問に質問で返そうとしたが……身体が応答しない。 目を開き、首を少し動かして、視野を確保するのが精一杯であった。 (身体が…重い…… 今敵に襲われたら… 楽に…逝けるな……) 何よりも男落胆させたのは、大切な相棒…”友”が自分の隣にいないことであった。 何の返答も無い。 (もしかして私… ”死体”を召喚しちゃった!? …でも、目は開いてるし…首もすこし動いてる? …ケガでもしてるのかしら?…) 少女は自分が召喚した生き物の安否を確かめるため、”それ”のそばに近寄り、まじまじと観察してみた。 どうやら初見通り、人間の男性らしい。 「黒地に、細い白い縞模様(ピンストライプ)」の変な服を着ている。肩には、鎧の肩当ようなモノを着けている。 (傭兵か兵士? まぁ、貴族ではなさそうね…) 呼吸に合わせ、身体が上下している。 (良かった… 生きてる… …ケガらしいケガも見当たらない…) (”死体”なんか召喚した日には、「”使い魔のライフポイントがゼロ”のルイズ」って呼ばれかねないもんね…) 自嘲気味に、安堵の気持ちを心の中で呟いた後、今度は首から上を改めて見てみる。 髪をいくつかに束ねて、植物の房のような髪型。額には、黒いバンダナを巻いている。顔立ちはなかなかの男前…だと思う。 男は一生懸命、目をぐるぐると動かしている。意識はあるようだ。 (…平民が使い魔だなんて気に入らないけど… 出てきたものはしょうがないわ・・・) 少女は人生で(まだ十数年ではあるが、それでも)トップ3に入るほどの譲歩と妥協をしてのけた。 (…やっぱり何事も最初が肝心よね? 御主人様としての威厳を見せ付けないと…!!) (ここはどこだ?) 自由の利く目を最大限使い、少しではあるが首も動かし、辺りを確認してみる。 …どうやらヴェネツィアの広場ではないらしい。なにやら少女以外にも、沢山の人の気配がする。 (…確かにオレは…・・・ヴェネツィアで死んだはず……だよな) 何故ティッツァが隣にいないのか。何故生きているのか。何故ヴェネツィアから移動しているのか。何故…。 疑問はたくさん有るが、それよりも、今現在何をするべきかを考えなくては……。 先ほど自分に声をかけてきた少女が、近くに寄ってきていた。 ……オレを観察してるらしい。 (まさか、コイツが”新手のスタンド使い”ってことは……) 最初に目に飛び込んできたのは、桃色がかったブロンドの、綺麗な長い髪である。 大地に仰向け状態のまま、動けぬ自分から見上げると、背景の青空のせいで、より桃色が映えて見えた。 顔だって整っている。美人というか、美少女というか。とりあえず、十分”有り”である。……色気は感じられないが。 (あと何年かすりゃもっと”化ける”な……って、そんな場合じゃねーな) 微妙に緊張感が無くなっている。いや、集中力と思考力が下がってきている。 (このまま目をつむったら楽になりそうだ……) 緩やかに、穏やかに”生”を終えるときは、こんなカンジなのだろうか……。 男の顔前に可愛い小さな顔が移動してきた。 「…もう一度聞くわ。 あなた誰? 名前は?」 落ちついた調子で、問いかける。 (…多分……スタンド使いとは違うな……答えても問題なさそうだ・・・) 少女の考えた”余裕のある威厳”を感じたからか、男が沈黙を破った。 「………スクアーロ…」 消え入りそうな声。スクアーロの全身全霊を込めた主張であった。 「そう、”すくあーろ”ね? どこの平m「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 誰かが、少女の威厳ある対応を横から完全にぶったぎる。それを受け、少女以外の人間が笑う。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女は怒鳴るが、周りの人間は気にしていない。それどころが、さらに追い討ちをかける。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「ルイズの失敗率は世界一ィィィッ!!」 「さすがはゼロのルイズだ!」 誰かがそう言うと、人垣がどっと爆笑した。 少女の名前はルイズというらしい。 (やっぱり平民の使い魔なんて嫌!) …ルイズは先ほどの譲歩と妥協をあっさり撤回した。 「ミスタ・コルベール!」 ルイズはスクアーロに背を向け、怒鳴った。 すると、中年の男が前にでてきた。……生え際は完全に後ろへ下がっていた。むしろ無い? ルイズはミスタ・コルベールに怒鳴りながら、コルベールはミス・ヴァリエールを諭しながら、会話をしている。 「もう一度……!!」 「それは……」 …なにやら、召喚だの儀式だの、果ては使い魔なんて単語が出てきた。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 ルイズがそう言うと、再び周りがどっと笑う。ルイズは人垣を睨みつけるが、笑いは収まらない。 「…たとえ彼が平民でも、君の使い魔になってもらわなくてはな」 「そんな……」 ルイズはがっくりと肩を落とした。 「さあ、儀式の続きを…」 「えー、彼と?」 ルイズとコルベールは、まだ話し合っていたが、ルイズの勢いは完全になくなっていた。 (……平民てオレのことか? …使い魔になる?オレが?) 聞こえてくる会話と自分の状況を何とかすり合わせ、導き出した答えは納得できないものであった。 というか、理解できない代物であった。 (そもそも使い魔ってなんだ? 契約?書類でも書くのか?) スクアーロが、脳内で謎と疑問軍団と戦っていたとき、ルイズがスクアーロの方に向き直った。 「ねえ… あんた…聞こえてる?」 「……何とかな」 そう。と一言いうと、ルイズはスクアーロの左手真横に、立て膝の状態で構える。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 貴族?またとんでもない単語が出てきたな…。 ルイズは諦めたように目をつむる。 手に持った、小さな杖をスクアーロの目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と、呪文らしき言葉を唱え始めた。 すっと、杖をスクアーロの額に置いた。 そして、横たわったままのスクアーロの唇を奪う。 ズキュウーーーz___ン それはまるで、王子様が眠れるお姫様へのキスするかのように。…配役は逆だが…。 「終わりました」 スクアーロから唇を離し、ミスタ・コルベールに告げる。 ルイズは顔を真っ赤にしている。どうやら照れているらしい。 …まさか初めてのキスじゃねぇよな? スクアーロの予想は的中していたが、それを確認するほど野暮ではなかったし……。 「誰にでも、初めてはある」ということだ。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 コルベールが嬉しそうに言った。 「相手がただの平民だから、『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 すかさず野次が飛び、ルイズがそれに噛み付くように反撃してゆく。 …よくやる……。 ルイズと巻き毛の子をコルベールが宥めていた。そのとき、スクアーロの体が妙に熱くなった。 「うぐァァ! ぐうううう!」 仰向けの体勢から、体を丸め、何とかこらえようとする。だが……。 熱い!これはまるでッ!……そうッ!あの時のッ!ナランチャにッ!エアロスミスで撃ち込まれた時と同じッ!全身に機銃をブチ込まれた感覚と同じだッ!! スクアーロが何かをこらえている様子を見て、語りかける。 「すぐ終わるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 余りにも事も無げに告げるルイズを睨みつける。 「あのね」 「なんだッ!」 「さっきからあんた……。平民が貴族にそんな口利いていいと思ってんの?」 うるせぇ!と怒鳴りつけてやろうとした瞬間、熱さが消え、体は平静を取り戻した。 「ふぅ……。」 熱さが引くと、今まで言うことを聴かなかった身体が素直になった。むしろ絶好調といっても良い。 最高に「ハイ!」ってやつかアアアア? コルベールが近寄り、スクアーロの左手を確かめる。 「珍しいルーンだな。…なかなか興味深い」 そんなに興味深いなら、テメーのその光るデコに、オレがじっくり刻んでやろうか!? さっきまでの諦観的・悲観的な気持ちから一転、強気なセリフを思いつくほど”息を吹き返した”。 「…それでは皆、教室に戻りましょう」 少しだけ名残惜しそうにしながら、スクアーロの左手から視線を外し、二・三歩歩くと宙に浮いた。 飛んだ…のか……? …ッ! スタンドかッ! さっと身構える。しかし……。 (水がッ…!? 水がねぇッ!) 慌てて周りを見渡すが、水溜りすらない。さらに他の生徒と思わしき連中も一斉に宙に浮く。 (全員スタンド使いかッ!? いや、いくら何でもそれはありえねぇッ!?) 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』どころか『レビテーション』さえもともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 口々にそう言って笑いながら飛び去っていく。 自分への攻撃でなく、純粋に移動手段であることに安心するとともに、思いもしない光景にかなりの衝撃を受けた。 警戒を解き、飛んでゆく人間?を見送ることしかできなかった 二人きりになって、ルイズは大きなため息をつきながら、大声で怒鳴った。 「あんた、何なのよ!」 それからはただただ一方的にルイズがまくし立てた。 なんで、私の使い魔が平民なの?グリフォンとかドラゴンがよかったのに!どっからきたの?何その格好?その変な髪型は意味有るの? …質問というか、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、身振り手振りで「疑問と要望」をぶつけてくる。 そんなルイズに何の反応もしないスクアーロ。何か考え事でもしているようだ。 返答しない使い魔のそっけない態度に、さらに燃えつきるほどヒート!!…アップしようとするルイズ。 そんな御主人様を、使い魔はいきなり抱きしめた。 「ちょ、ちょっと1? な、なにするd 「色々言いたいことはあると思うが、オレたちが最初にすべき事は…」 「互いの理解を深めること。 それには”コレ”が一番早い……」 スクアーロは目を閉じ、ルイズにキスをしようとしたが……。 次の瞬間、スクアーロの大事な部分は無言で蹴り上げられた。 薄れ行く意識の中で、スクアーロは友に「反省と考察?」を述べた。 …やっぱり慣れないことはするもんじゃないな……。 ティッツァーノ… ここがどこだかわからねぇが……。 かなりヤバイところってことと……。 ここの女の子は可愛いが…気が強くて…攻撃的ってことは確実だぜ……! うずくまり、微笑を浮かべながら気を失う使い魔と、赤面しつつ、怒りに体を震わせながら使い魔を見下ろす御主人様。 …なんとも空の『青』に『赤い顔と桃色の髪』が映え、大地の『緑』に『黒い服』が良く馴染んでいた……・ 第1章 オレは使い魔 前編終了 To Be Continued......
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1866.html
朝早くワルドに起され促されるままついていくと、礼拝堂でわたしの結婚式が 始められようとしていた。 ここに居るのは、わたしとワルド、ウェールズ様とプロシュートだけだった。 何故、今こんなのとになっているのか、わたしには分からなかった。 ワルドは、この旅が終われば僕を好きになると言った。 結婚しようとも言った。 だけど、何故、今?こんな時に?こんな場所で結婚式を? 分からない、分からない。 不安になりプロシュートを見るが、彼は部屋の隅で黙ってグラスを傾けていた。 どうして何も言ってくれないの? 「緊張しているのかい?仕方が無い。初めてのときは、ことがなんであれ 緊張するものだからね」 ウェールズ様は、にっこりと笑って後を続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして夫と…………」 こんな気持ちで結婚なんて出来るワケないじゃない。 わたしはウェールズ様の言葉の途中で首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 ウェールズ様とワルドが怪訝な顔でわたしの顔を覗き込む。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの。ごめんなさい……」 「日が悪いのなら、改めて……」 「そうじゃないの、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、 あなたとは結婚できない」 わたしの言葉にウェールズ様は首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、 わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドの顔に、さっと朱みがさした。ウェールズ様は困ったように首をかしげ、 残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、わたしの手を取った。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。きみが僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。 でも、今は違うわ」 ワルドは、わたしの肩をつかんだ。その目がつりあがる。表情がいつもの 優しいものでなく、どこか冷たい、トカゲか何かを思わせた。 熱っぽい口調でワルドは叫んだ。 「世界だルイズ僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、わたしは首を振った。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 ワルドは両手を広げると、わたしに詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの『虚無』が!」 そのワルドの剣幕に、わたしは恐くなった。優しかったワルドがこんな顔をして 叫ぶように話すなんて夢にも思わなかった。 わたしは知らず知らずのうちに、ワルドから身を引いた。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀な メイジに成長するだろう!きみは気づいていないだけだ!その才能に!」 「ワルド、あなた……」 この人は、わたしの知っているワルドじゃない。何が彼を、こんな物言いをする 人物に変えたのだろう? ワルドの剣幕を見たウェールズ様が、間に入ってとりなそうとした。 「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」 が、ワルドはその手を撥ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズ様はワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 ワルドは、わたしの手を握った。 「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは、そんな才能のあるメイジじゃないわ」 「だから何度も言っている!自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」 痛い。振りほどこうとしたが物凄い力で握られて振りほどくことができない。 「そんな結婚死んでもいやよ。あなた、わたしをちっとも愛してないじゃない。 わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、 在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。 こんな侮辱はないわ!」 ウェールズ様がワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。 しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。 突き飛ばされたウェールズ様の顔に赤みが走る。立ち上がると、杖をぬいた。 「うぬ、なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から 手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 そのまま風のように身を翻らせ、ウェールズ様の胸を青白く光る杖で貫いた。 「ウェールズ、貴様ごとき無能なメイジが僕を切り裂くと?笑わせるな! 滅びの道しか残されておらぬ哀れな王族よ、そこで犬の様に這い蹲り、 己の無力さを呪うがいい」 「き、貴様……、レコンキスタか?」 ウェールズ様の口から、どっと鮮血が溢れる。 「よく気が付いたな、偉いぞウェールズ」 ワルドは冷たい感情のない声で言った。 「ウェールズ様!」 わたしはワルドの手を引き剥がしウェールズ様を抱え起こした。 「……ラ・ヴァリエール嬢……アンリエッタに……この指輪を」 ウェールズ様は震える指先で自分の指輪をわたしの手の平にそっと置いた。 「あと……アンリエッタに……」 言い終わらない内にウェールズ様の手がダラリと垂れた。 「しっかりしてください!ウェールズ様!」 ウェールズ様の体から生命の鼓動が消えた。 わたしは、たまらずワルドに怒鳴った。 「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね!裏切り者ッ!」 「裏切り者か……ルイズ、視野を広げて見ると、裏切っているのは実は君達の 方かもしれないよ」 わたしの怒鳴り声にも、どこ吹く風のワルドがとんでもない事を言い出した。 「何言ってるの?」 「始祖ブリミルの悲願、聖地の奪還を疎かにし、ブリミルの恩恵である魔法の 力を貴族同士で領土を奪い合うためだけに使う事こそが、始祖ブリミルに 対する裏切りだとは思わないか?ルイズ」 「なら、その考えを陛下に言えばいいじゃない!」 「言ってどうする、ハルケギニア全土のメイジの意志を一つにまとめる事に 何年かかると思っている。いや、不可能といってもいい。そのために革命が 必要なのだよ」 「昔は、そんな風じゃなかったわ。何があなたを変えたの?ワルド!」 「月日と、数奇な運命のめぐり合わせだ。今ここで語る気にはならぬ 話せば長くなるからな」 もはや目の前の男は、わたしの知ってるワルドじゃない! 「助けて……助けてプロシュート!」 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ピタリ プロシュートはわたしの隣に来ると手に持ってたグラスの氷水を わたしの頭にぶっかけた! 「冷たッ!なにすんのよ!」 「頭を冷やせルイズ。要するにワルドは敵だってワケだ。後はワルドを 倒し手紙を持って帰る。それだけだろ?」 「えらく簡単に言ってくれるわね。ワルドはスクエアのメイジなのよ」 「知ったことか、お前は自分の身を守る事だけを考えてろ」 いつの間にか出現したグレイトフル・デッドがワルドに向かって大きな手を 繰り出した。しかし、その大きな手はワルドの杖で防がれてしまった! 「見えているの!?」 わたしの疑問にワルドは余裕の態度で解説した。 「見えている訳ではない、風の動きを読んだのさ。土くれの情報『見えない力』 と言ったな。動きが速過ぎる為見えないと思っていたのだが、そのままの意味 で『見えない力』であったか」 今までプロシュートが圧倒的だったのは、他のメイジにはグレイトフル・デッドが 見えていなかったからだ。 「ど、どうするのよプロシュート」 しかし、プロシュートに全く焦った様子は無かった。 「慌てるなルイズ。俺は見えて当たり前のヤツ等と殺し合ってきたんだぜ。 見えて対等であって、決して不利じゃねえ!」 グレイトフル・デッドの拳をワルドは飛びながらかわした。 それから杖を振り、呪文を発した。プロシュートはグレイトフル・デッドで防ごうと するがウィンド・ブレイクは脇をすり抜け彼だけを襲う。プロシュートは剣を素早く 構え受け止めようとするが壁にぶち当たり、プロシュートは呻き声をあげる。 怪我した左腕が痛むのか、プロシュートの動きにいつものキレが感じられない。 「どうした?お前のお前の力を見せてみろ、偉大なる使い魔ガンダールヴ」 残忍な笑みを浮かべて、ワルドが嘯く。 そんなとき、デルフリンガーが叫んだ。 「思い出した!」 プロシュートも突然のデルフリンガーの言葉にとまどってる様だ。 「なんだよてめえ、こんなときに!」 「そうか……ガンダールヴか!」 「なんのことだ!」 「いやぁ、俺は昔、お前に握られてたぜ。ガンダールヴ。でも忘れてた。 なにせ、今から六千年も昔の話だ」 「寝言、言ってんじゃねえ!」 デルフリンガーに返答しながらプロシュートはワルドの魔法をかわしていく。 「嬉しいねえ!そうこなくっちゃいけねえ俺もこんな格好してる場合じゃねえ」 叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が光り出す。 プロシュートは呆気に取られてデルフリンガーを見つめていた。 「デルフ?」 再びワルドはウィンド・ブレイクを唱えた。 光に気を取られていたプロシュートは避けずにデルフリンガーを構えた。 「無駄だ!剣では避けられないと、わかっただろうが!」 ワルドが叫んだ。が、しかし、プロシュートを吹き飛ばす風が、デルフリンガーの 刀身に吸い込まれていく。 そして……。 デルフリンガーは今まさに砥がれたかのように、光り輝いていた。 「デルフ?お前……」 「これが、ほんとの俺の姿さ!相棒!いやぁ、てんで忘れてた!そういや 飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えたんだった!なにせ、面白いことは ありゃしねえし、つまらん連中ばっかりだったからな」 「早く言いやがれ!」 「しかたねえだろ。忘れてたんだから。でも安心しな相棒。ちゃちな魔法は 全部、俺が吸い込んでやるよ!この『ガンダールヴ』の左腕、 デルフリンガーさまがな!」 興味深そうに、ワルドはプロシュートの握った剣を見つめた。 「なるほど……。やはりただの剣ではなかったようだ。この私の『ライトニング・ クラウド』を軽減させたときに、気づくべきだったな」 それでも、ワルドは余裕の態度を失わない。 杖を構えると、薄く笑った。 「さて、ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、 その所以を教育いたそう」 プロシュートは剣とスタンドで襲うが、ワルドは軽業師のように剣戟を かわしながら、呪文を唱える。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。 四体の分身、本体と合わせて、五体のワルドがプロシュートを取り囲んだ。 「分身か……ギトーはコレを見せようとしてたのか」 「ただの『分身』ではない。風のユビキタス(偏在)……。風は偏在する。風の 吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ワルド達は懐から真っ白な仮面を取り出すと、顔につけた。 あの、桟橋で襲ってきた仮面のメイジはワルドだったの! 「まるでスタンドだな。最強の所以は分かった……だとしたら、どうして『虚無』に 拘るんだ、『風』が最強なんだろ?」 プロシュートの問に、フッとワルドは自嘲的な笑いを浮かべた。 「確かに系統魔法で『風』は最強だ……だが視野を広げて見ると、認めたくは 無いがエルフの使う先住魔法は我らの力を遥かに凌駕する。その強力なエル フ共を打ち破る為にルイズの『虚無』が必要なのだよ!」 ワルドの目に以前、宿で見た妖しい光が灯る、ワルドの本当の目的が判った。 ワルドが在るという、わたしの虚無の力がエルフを倒す為に必要だったのね。 「自分じゃエルフを倒せない、だからルイズの力に頼ろうってのか。恥ずかしく 無いのかテメーはよぉ」 「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね」 言い終わると、ワルドは呪文を唱え、杖を青白く光らせた。 『エア・ニードル』、さきほど、ウェールズ様の胸を貫いた呪文だ。 「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことはできぬ!」 五体のワルドがプロシュートを襲う。 その攻撃をプロシュート自身とグレイト・フルデッドが防ぐが、五対二……はっきり 言って分が悪い。反撃できずに防戦一方だ。 ワルドは楽しそうに笑った。 「平民にしてはやるではないか。さあ見せてみろ、お前の力はこんなものでは ないのだろう?」 じりじりとワルド達はプロシュートににじり寄った。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「もう、スデに『見せている!』、気づいてないのか?」 まさかっ!まさか……プロシュートは!…… 「なに!?こっ、これは……」 ワルドの仮面に隠されていない口元に深い皺が刻まれていた。 あの長い髪にも分かりづらいが白髪が見え隠れしている。 グレイトフル・デッドの無差別老化攻撃! わたしは慌てて自分の髪を手ですき、観察してみる。 艶のある桃色のブロンド……指先も皺が無かった。 顔は鏡がなかったので確認できなかったが、手触りでは違和感が無かった。 こいつら!早くも気づいていやがったんですよ!兄貴の『グレイトフル・デッド』は 体を冷やせば老化が遅れるっって事をよォーッ。 !!突然聞こえた男の声。だから、プロシュートはわたしに氷水をかけたのね。 わたしの体を冷やすために。 「こ、これはっ!?この疲労感は!」 ワルドの言葉に始めて焦りが出てきた。 「どうしたワルド、任務の疲れで肩コリでも出て来たか?」 プロシュートはデルフリンガーとグレイトフル・デッドでワルドに攻撃した。 ワルドにも先ほどの動きが見られなかった。 「うおおおおおおおぉ、そんな馬鹿な!神の左手ガンダールヴ、その『能力』は あらゆる武器を使いこなす事と超人的な運動能力の二つのはず……… この力は一体……!?」 「この力は俺自身のスタンド能力だ」 プロシュートがグレイトフル・デッドの拳をワルドに振るう。 「『スタンド』?先住魔法か!?」 「おいおいワルドさんよー、俺が何から何まで親切に教えると思うのか?」 「おのれ土くれ!なにか隠しているとは思ったが、この事だったとは!!」 フーケ……ワルドに老化現象は話さなかったのね。いや、思い出したくも 話したくもなかったのか。 このままだとプロシュート押し勝つだろう…… なんだか心のモヤモヤが晴れない、わたしは何をやっているんだろう。 フーケの時も、今の戦いもプロシュートに任せっきりにしている。 たしかに使い魔は主人の身を守る。だけど主人は何もしないって事じゃない。 わたしは、この任務で成長すると誓った。だけど今わたしは何もしていない…… これじゃ何も変わらないわ。 わたしは杖を掲げ呪文を詠唱する。 「なにやってる!ルイズ」 プロシュートの叱責が飛ぶが、わたしは止めない。 ファイアーボールを唱え杖を振る。一体のワルドが表面で爆発する。 ぼこん!と激しい音がして、そのワルドは消滅した。 「え?消えた?わたしの魔法で?」 残った四体のワルドが一斉にグルリとわたしの方を向いた。 こっ恐い……。 「ファイアーボールの一発で僕の偏在が消し飛ぶ訳が無い。君は土くれの ゴーレムの腕を吹き飛ばしたそうじゃないか、しかも再生するはずの腕を そのままにして」 ワルドの言葉に熱がこもる。 「追い詰められ、命を懸けると本当の力がわかる。なるほど、そこの使い魔の 言うとおりだ。まだ自分の系統に目覚めてもいないのに、この威力! 覚醒すればどれ程の力になるのか楽しみだ、実に楽しみだぞ僕のルイズ!」 ワルドが目を輝かせ、わたしに杖を向ける。 「逃げろ!」 プロシュートが叫ぶがワルドの風で、わたしは壁に叩き付けられた。 「「カ八ッ」」 わたしは衝撃でしばらく体が動かなかったがワルドは何もせず、ただプロ シュートの様子を眺めていた。 おもむろにワルドが口を開いた。 「今、僕の魔法が、かすりでもしたか?」 何を言ってるのワルド? プロシュートの方を見ると険しい表情で汗をダラダラとかいていた!? プロシュートが叫ぶ。 「逃げろッ!ルイズ!」 わたしには何が何やらさっぱり分からなかった。 「主人の危機を知らせる能力か?ルイズのダメージが使い魔に伝わったのか」 ワルドの攻撃の質が変わった!プロシュートだけを狙う攻撃から、わたしにも風 を当てようと杖をこちらに向けてきた。 ズドドドドドドド 「うおっ、うおぉおおおおお」 プロシュートはわたしを庇う様にワルドの前に立ちはだかる。 「プッ、プロシュート!!」 「オレにかまうなッ!逃げろッ!」 「え!!え!?」 「早くにげろーッ!」 わたしのダメージがプロシュートのダメージになるですって? 思い出した!!そういえば召喚した時にプロシュートが言っていた。 それを今の今まで忘れていたわ!何てこと、何てことなの。 まさか、こんな事になるなんて! 一体のワルドがエア・ハンマーを、わたしにぶつける。 「「カハッ」」 攻撃を受けていないプロシュートも息をもらす。 「隙だらけだぞガンダールヴ」 三対のワルドの杖がプロシュートを引き裂いた。 「プロシュート!!」 プロシュートが床に倒れる、その体はピクリとも動かない。 出血がみるみる内に床に広がっていく。 わたしは立派なメイジになるとか、認められたいとか……空回りして。 プロシュートの足を引っ張って、最低のマヌケだわ。 ワルドの顔から皺が消えた…… 余裕を取り戻したワルドが、にこやかな口元で声を高らかにあげた。 「さてルイズ、今一度問おう。僕と一緒に来てくれるかい?」 「絶対に嫌よ!」 YESと答えると思ってんの、この男は? 「さて、どうしたものか。かけがえのない『虚無』を殺してしまう訳にもいかぬ。 無理矢理に連れて帰っても協力を得られない……薬でも使うか?いや…… 魔法の使えぬ人形にしては意味が無い……そうか、その手があったか。」 ワルドは、ニタァと笑うと舐める様な視線をわたしに向けた。 「君に惚れ薬を使う」 「ワルド、あなた何を考えているの。惚れ薬の売買、所持、使用は重罪よ!」 「革命を考えている者に、その様な忠告は無意味だとは思わないのかい?」 「あなた最低ね!」 「最後に自分の考えで話せる言葉は、それでいいのかい僕のルイズ?」 いいわけないでしょ。なにが惚れ薬よ!冗談じゃないわ! 「フフフ、いいぞ『聖地』が見えてきた!ヤル気がムンムンと湧いてくるじゃ ないか!ええ、おい!」 ワルド、自分の世界に酔ってる? 四対のワルドがゆっくりと、わたしを囲もうと動き出す。 「フフ、すぐ済むよ」 にっこりと笑うワルドはもう、ただ気持ちが悪いとしか言い様がない。 「近づかないで!」 ファイアーボールを唱える。 しかし、ワルドにぶつからず、全く別の場所が爆発するだけだ。 続けてもう一度唱えるが、これも当たらずワルドの歩みは止まらない。 「威力は申し分ないがコントロールは、まだまだの様だな」 歩み寄って来るワルドの足が急に止まった。 「ば……ばかな!こ……この疲労感……ま……また始まったぞ!」 「終わってないぞ!!まさか……まさか!あいつ!」 ワルドが苦しんでる?でも……プロシュートはもう…… わたしはプロシュートに視線を向ける。 「グレイト……フル・デッド……」 プロシュートの血溜の中にグレイトフル・デッドが立っていた。 その表面が古い土壁の様にボロボロと崩れていく………… まるでプロシュートの傷を表わすかのように…… 「プロシュートォォォォォ」 「本当に……あなた……ううっ……そのとおりだったのね。 腕や脚の一本や二本、失おうとも、わたしを守ると言った事は!! プ……プロシュート、あんなボロボロの重症じゃあ………… も……もう……あなたは助からないッ! 息をひきとるのも時間の問題ね。 だのに、あなたは自分のグレイトフル・デッドを解除しない。 わかったわプロシュート!! あなたの覚悟が『言葉』でなく『心』で理解できたわ!」 ワルドがプロシュートに息の根を止めようと襲い掛かる。 「この死にぞこないが!」 そうはさせない!! 「ファイアーボール」 プロシュートに迫ったワルドが吹き飛んだ。 「むっ!!ルイズのコントロールが良くなった!?」 残った三対のワルドが、わたしを取り囲もうと動き出す。 わたしは急いでプロシュートを守るように立った。 「嬢ちゃん、俺を使え!」 足元から、デルフリンガーが声をあげる。 わたしは、言われるままデルフリンガーを両手で構える……重い。 杖と剣を纏めて持っているので、振るいにくい! 剣を構えたとたんにウィンドブレイクが迫ってきた。 だがそれはデルフリンガーによって吸収されていく。 「くっ、インテリジェンスソードか!直接ルイズを気絶させねばならぬようだな」 目の前のワルドが、わたしに杖を構える。 「ファイアーボール」 ワルドが音を立てて消し飛んだ。これも偏在か……だが、あと二体!! 消し飛んだワルドから、二体のワルドが間合いを取る。 「せ……正確すぎる、僕の動きが正確に読まれてしまっている。 しかも一撃で偏在を吹き飛ばされる『パワー』もすごい! 老化の使い魔さえ倒せば、もう僕の勝利かと思ってた…… だが甘くみていた、この戦いの中で本当にやっかいなのは 『老化させる能力』の使い魔の方ではなかった 真に恐ろしいのは……!!この『虚無』のルイズの方だった!」 今まで、外していたのが嘘のように、狙い通りに魔法が当たる。 不思議な感覚、これがリズムが生まれるってやつなの? 「栄光は…………おまえに……ある……ぞ………… ……やれ やるんだ…… ルイズ オレは…… おまえを 見守って…… いるぜ…… やれ…… 」 「ルイズ、君の『面がまえ』……今まで、こんな『目』をしているメイジではなかった まるで『十年』も修羅場を、くぐり抜けて来たような……スゴ味と…… 冷静さを感じる目だ……たったの数分で、こんなにも変わるものか…… 君に小細工は通用しない!!」 二体のワルドがわたしに突っ込んできた。 「ファイアーボール」 わたしは前を走るワルドに魔法をぶつけた。 ワルドが爆発し消し飛ぶが、後ろのワルドは構わずに突っ込んでくる。 偏在を盾にしたのか。これで残るのは本体のみ! 「もらったよ、僕のルイズ」 呪文が間に合わない!単純な力押しできたか!! ワルドが杖を構える。やっぱり、わたしじゃ勝てないというの? 憎憎しげにワルドを睨む。その後ろには、いつの間にかグレイトフル・デッドが その大きな腕を振り下ろしていた。 ワルドの左腕が飛んだ。 「なにー!?」 「グレイト……フル・デッド……」 激昂したワルドが杖を振り上げた。 「この使い魔がッ!!」 ありがとうプロシュート。このチャンス、無駄にはしないわ。 「隙だらけよ!ワルドッ」 プロシュートに一撃を加えた屈辱の台詞をそのまま言い返す。 「しまっ……」 「ファイアーボール」 「ぐはッ!!」 ワルドの表面で爆発が起こり、煤だらけで倒れた。 倒した……わたしが『スクエア』のワルドに勝った!!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1614.html
「……一体、これはどういう事だ?」 場所は『女神の杵』亭の中庭。 かつては貴族たちが集まり、トリステインの王が閲兵を行ったという練兵場跡で、ワルドはDIOと向かい合っていた。 しかし、ワルドが決闘に備えて緊張した趣であるのに対し、DIOはいつもと変わらない佇まいである。 何よりの違いは、DIOの放つ空気だった。 決闘などする気など全く感じられない、緩かな雰囲気。 その代わりに、DIOの隣に立つ一人の少女が、全身に闘気を纏わせているではないか。 これでは、まるで少女の方が決闘に臨むかのようである。 「ワルド、来いって言うから来てみれば、そのメイドとチャンバラする気なの?」 思ったことをそのまま述べたのは、ルイズであった。 彼女はこの決闘の介添え人として、ワルドに呼び出されたのであったが、 早い時間に起こされた彼女は、機嫌がよろしくなかった。 遊んでる場合じゃないでしょうが……と、じと目で呟くルイズに、ワルドは慌てて否定した。 「いや、ルイズ待ってくれ。これにはちょっとした事情が……!」 「うむ、子爵の言う通り。やむにやまれぬ事情があるのだ」 ワルドの台詞を横取りする形で、DIOが言った。 上手い言い訳が思いつかないワルドにとっては、ありがたい横槍と言えた。 しかし、DIOに出しゃばらせるのは癪と思うワルドは、即座に抗議の声を上げた。 「使い魔君……レディを代理に立てた挙げ句自分は高みの見物とは、紳士としてあるまじき振る舞いだぞ。 君には、男としての名誉を尊ぶ精神が無いのか?」 『名誉を尊ぶ』などという建て前が、ワルドの口から出た途端、ルイズは吹き出しそうになってしまった。 あのDIOが、そんな使い古された常套文句にいちいち反応するなんて有り得ないと、痛いほどに分かっていたからだった。 それを証明するかのように、DIOは薄く笑った。 猫がネズミをいたぶる時のような彼の笑みの意味を、ルイズはこれまたよく分かっていた。 「勿論これにはきちんとした理由がある。 私としても、子爵と剣を交えるのはやぶさかではないのだが、生憎と、今の私は療養中の身なのだ。 子爵が退室した後に思い出したのだが、過度に飛んだり跳ねたりする真似は絶対にするなと、 私は医者にキツく言われていたのだよ」 本当に悲しそうな顔をして、釈明を始めるDIO。 嘘八百とはこの事ね、とルイズがぼやいた。 しかし、その声は小さく、その場にいた者に聞かれることはなかった。 DIOの説明は続く。 「しかし、それでは折角私の部屋に出向いてまで決闘を申し込みに来てくれた子爵に対して、礼を失することになってしまう。 そこで、彼女を代理に立てるという形で、子爵の礼に最大限応えようという結論に達したわけだ。 断腸の思いだった。 私の腕前を子爵に披露することが出来ない無念を、『紳士的に』理解してくれると有り難いな、子爵。 だが、安心してくれ。 代理とはいえ、彼女の腕前は確かだ。私が保証する」 「しかし、う………むぅ…」 立て板に水を流したようなDIOの説明に、ワルドはすっかり閉口してしまった。 これでは、当初の計画における目的が、十分に達成できない。 今無理やり場の流れを変えようとしても、白々しく映ってしまい、ルイズの心証を悪くしてしまう。 最早ワルドに選択の余地はないのだが、それでもワルドは諦めきれなかった。 目の前に悠然と佇むあの男、どう見てもそんな重傷患者には思えない。 ワルドはそこを突いてみることにした。 「り、療養中といったね、使い魔君……。 ならば、今この場でその証拠を見せることは出来るかい?」 ワルドの最後の足掻きに対して、DIOは無言で己の首筋を見せつけた。 自然と、その場にいた人間の視線を集めることになる。 そこには、まるで一度切り落とした首を無理矢理肉体(ボディ)と繋ぎ合わせたような生々しい傷跡が、くっきりと刻まれていた。 「船の爆発事故に巻き込まれた時の傷だ。 似たような傷が、体中至る所にある」 やや忌々しげに傷の説明を加えるDIOに、ワルドはとうとう諦めた。 こうなった以上、自分にとって出来る限り最善の結末を迎えることを狙わうしかないと、ワルドは自分の心を切り替える。ルイズがいる手前、無様な姿だけは決して見せられない。 「うう、む…………仕方あるまい。 レディ相手に杖を振るというのも気の進まない話だが……」 内心の決心とは裏腹に、取り敢えずの躊躇いを見せるワルドに対して、シエスタは律儀に答えた。 「余計な心配でございます。 DIO様はわたくしに『一切を任せる』と仰いました。 従って、子爵様。大変畏れ多いことですが、わたくしをDIO様と思ってお相手をなさって結構でございます」 そう言いつつ、シエスタは懐から何やら取り出して、己の両拳に嵌めた。 今回は剣は使わないらしい。 金属で作られているのであろうソレは、昇りきった朝日の光を照り返し、ギラリと危険な輝きを放っている。 一見すると連なった四連の指輪のようにも思えるが、どうやらアレが彼女の武器のようだ。 魔法衛士隊隊長であるワルドですら、見たことの無い一品である。 拳で握り込む物であるらしいことだけは見て取れた。 だが彼に限らず、魔法を使うメイジ達には、ソレが何なのかを知る機会など皆無であっただろう。 ソレは魔法の使えない平民の武器であった。 ソレは、人々から煙たがられるゴロツキ達にとって、また、拳で語る漢達にとっての心強い味方。 その名をメリケンサックといった。 一度それを手に嵌めれば、使い手のパンチ力を反則的なまでに引き上げてくれる素敵アイテムである。 ましてやシエスタは、『固定化』の魔法をかけられた壁を素手で破壊する腕力の持ち主(ワルドは知らないが)。 そんな彼女がメリケンサックを嵌めたとなれば、その威力たるや、五臓六腑に響き渡るだろうことは想像に難くない。 運悪く脳天を直撃でもすれば、彼の頭蓋は地面に落としたワイングラスにも負けないくらい粉々に砕け散るだろう。 だが、彼女の怪力を今一つ実感することが出来ないワルドは、 どこか現実感の無い視線をシエスタに投げ掛けるだけである。 そんなワルドをよそに、シエスタは何度かメリケンサックの微妙な位置調整をした後、 両の拳を胸の前でガツンガツンと叩き合わせた。 見るからに闘志全開、意気揚々、殺る気満々という風情であった。 それもそのはず、彼女は自分の主の敵になる者は、例えお遊びであっても微塵の容赦もしないのである。 軽やかなステップと共にファイティング・ポーズを取ったシエスタは、視殺戦をワルドに仕掛けた。 真っ向から殺気を向けられて、相手が本気だとわかると、ワルドの顔が徐々に厳しいものになっていく。 「……なるほど、言うだけの事はあるな。 気迫だけはなかなかのものだ」 それは魔法衛士隊隊長としての、そして歴戦の戦士としての顔であった。 腰に下げてあった愛用の杖をやおら引き抜き、フェンシングの構えのように前方に突き出す。 「いざ、尋常に勝負といこう!!」 ワルドの掛け声を合図に、シエスタが地面を蹴り、流星のようにワルドに接近した。 (早い! ……が、直線的だな。 昨日の剣の使い方といい、やはりド素人か!) 凡そ華奢な少女の肉体では出せないほどのスピードにワルドは内心驚愕したものの、 長年の経験を生かし、顔色一つ変えずに迎え撃った。 ―――そう、迎え撃ってしまったのである。 得意げな顔をして杖を構え、衝撃に備えるワルドの姿を見て、ルイズは思わず叫んでいた。 「ワルド! 避けなさぁあああぁあい!!!」 だが、一足遅かった。 金属と金属がぶつかる鈍い音が響き渡り、火花が散った。 。 初合の勢いを殺しきれなかったのか、シエスタはバランスを崩して転倒してしまった。 ズザザーッ! と激しい砂埃をあげながら地面を滑るシエスタを、ワルドは油断無く見やる。 初撃をスマートに受け流す事が出来たとばかり思い込み、口端を吊り上げずにはいられなかった。 だが、転倒したシエスタに追撃を加えるために杖を振ろうとした時、彼は自分の右腕に起きた変化に気がついた。 ピクリとも動かない上に、右肩から先の感覚が全くないのだ。 恐る恐る自分の右腕を見る。 「おや?」 あらぬ方向にねじ曲がった右腕が、杖を握ったまま風もないのにぶらぶら揺れていた。 余りに想定外な出来事に、ワルドはどこか他人事のような顔をした。 しかし、徐々に右腕から走り出してくる激痛に、ワルドの意識は容赦なく現実に引き戻された。 「うおおおおおおおおおおおおおおお おおおおおおおおおおおお!?!?」 すれ違いざまのシエスタの一撃は、杖による防御を無視して、ワルドの右腕を破壊していたのであった。 見慣れたはずの自分の腕が、目も当てられない醜い姿に変わり果ててしまえば、誰だって叫び声をあげるだろう。 それは、王宮ではいつも冷静沈着で通っているワルドですら例外ではなかった。 「あのバカ……どういう技なのか見切れないのかしら」 技も何も、実際の所シエスタは、ただ力任せにぶん殴っただけである。 別にワルドがとんでもなく浅慮だったというわけではない。 むしろ、右腕粉砕という程度で済んだワルドの肉体のタフネスを誉めてやるべきだった。 常人なら腕を吹っ飛ばされていたに違いないのだが、そんな言い訳はルイズには通用しない。 喉よ裂けろとばかりに叫ぶワルドに冷たい視線を送りながら、ルイズは呆れ半分、怒り半分と感じで呟いたのだった。 to be continued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1726.html
緊張した面持ちのペルスランが、目の前の扉をノックする。 「お嬢様、奥様のお食事をお持ちいたしました」 「入ってきて」 タバサの声に従い、部屋に入ったペルスランはタバサの母の姿に目を見開く。 その顔が喜びにほころびそうになった時、しかしその腕に彼女の狂気の証たる、 人形が抱かれている事に気付いた。 「……そうでしたか」 「すいません…」 「い、いえ、そんなお顔を上げてください」 謝る育郎に驚きながらも、すぐにペルスランは自分の頭を下げる。 「遠い場所からこられた方を、しかも奥様のお身体は良くなられたというのに、 お礼を申し上げる事も無く、失礼な態度をとってしまった私が悪いのです!」 「そんな、僕の力が足りないばかりに…」 「いえいえ、私がいたらぬばかりに…」 二人が五分ほどそのようなやり取りを繰り返すのを眺めた後、タバサは口を開いた。 「母さまの料理が冷める」 「おお、これは申しわけありませんお嬢様!」 あわてて食事をテーブルに並べるペルスラン。 「どうぞ、奥様…」 タバサの母に礼をした後、2人に向き直る。 「では、お嬢様たちもどうぞこちらへ、お友達も待っておられます」 夕食を終えてすぐに、育郎達はそれぞれあてがわられた部屋へと向かった。 キュルケはタバサと同じ部屋に、育郎は使い魔という事でルイズと同じ部屋に。 その夜は、それから誰も部屋を出ようとはしなかった。 気疲れしたのか、タバサは部屋に入ってすぐ、ベッドに入って寝てしまった。 キュルケは黙ってそのあどけない寝顔を眺めている。 とてもこの少女が、過酷な運命を今まで一人で戦い続けてきたとは思えない。 「水臭いんだから…一言言ってくれれば手伝うのに…」 そうは言ってみるが、この少女は進んで自分を巻き込む事を良しとしないだろう。 「母さま」 不意にタバサが寝言をつぶやく。 「母さま、それを口に入れちゃ駄目。母さま」 苦しそうに何度も母の名を呼ぶタバサを見て、キュルケはベッドに入り込み、 タバサをしっかりと抱きしめる。するとキュルケの豊満な身体に母を感じたのか、 その寝顔が安らかなものに戻った。 雪風と呼ばれる彼女は、その無表情から心まで凍てついている等と言われている。 無論それは違う。親友の自分は彼女の心の奥底に、確かな熱を感じていた。 そして今日、その考えが間違っていない事に気付いた。彼女の雪風は、その熱を わざと隠す為にタバサ自身が作り上げた物だと。 それにたぶん… タバサはその雪風を払ってくれる人間を、心の底では求めているのだ。 だからこそ、正反対の自分と、こうして友情を育むことが出来たのだ。 「でもね、シャルロット…」 キュルケは優しく、眠るタバサに言い聞かせる。 「貴方の『雪風』を溶かすのはアタシの『微熱』だけじゃないわよ…」 先程の、彼女の母の治療が終わった後、食堂に入ってきたタバサの様子を思い出す。 その時のタバサは、親友の自分にしかわからないだろうが、とても穏やかな顔を していたのだ。 「イクローでしょ?本当に変わってるわよね、彼……… 貴方との事、勘違いだったと思ったけれど、本当は勘違いじゃないのかもね?」 そう言ってタバサの頭をなでる。 「そういえば…ルイズの様子も変だったけれど、どうしたのかしら?」 部屋に入ってしばらくの間、ルイズも育郎も一言も言葉を発しなかった。 「寝るわ」 ようやくルイズがそれだけ言って、ベッドにはいる。 育郎はソファに座りながらそのまましばらく考え込んだ後、自分もベッドに入ろうと 立ち上がった。 「ねえ、イクロー…」 寝ていると思っていたルイズが、ベッドに入ったまま声をかける。とはいえ、 顔は育郎の方とは反対側に向けているが。 「なんだい?」 「タバサとあの子のお母さまが、どうしてああなったか聞いた?」 「いや、タバサのお母さんが、毒を飲まされたらしいって事ぐらいしか」 「そう………あのね」 ルイズはペルスランから聞いた、タバサ達がこの国の王位継承争いに巻き込まれた という事を話した。 「そうだったのか…」 天上を仰ぎ見ながら育郎はつぶやく。 「そう、優秀な弟と無能と呼ばれる兄… 逆だったら、たぶんこんな事にならなかったんでしょうね」 そう言った後、再びルイズは口をつぐんだ。 育郎はその時やっと、ルイズの様子がおかしい事に気付く。 「逆だったら……きっと私も」 「ルイズ?」 「今のガリアの王様はね、魔法が使えないって噂されてるの。 だから無能王なんてよばれてる………私とおんなじ。 私にもお姉さまがいるの。二人いて、どっちも優秀な魔法使い…私とは大違い。 私はお姉さま達を尊敬してるわ。だってお姉さまなんだもの。 私より出来て当たり前って……でももし妹がいたら? 妹に魔法が使えないって馬鹿にされたら? それに、お母様やお父様は、魔法を使えない私を見向きもしなくなるかも… そうしたら私も、ガリア王みたいに…」 「ルイズ、その王様も本当はそんな事したくなかったかもしれないじゃないか? 周りの人間に王様にされて、弟をかってに殺されたのかもしれない… それに、君はそんな事」 ルイズは震える声で育郎の声をさえぎる。 「だって…だって私嫌な子だもん!」 「ルイズ…」 「私ね、アンタが始めて変身した時、びっくりしたけど嬉しかったの。 私が呼び出したのは平民じゃなかったんだって。 ちゃんとした魔法が使えたんだって」 「あんな姿を見れば、そう思うのもしかたないさ」 ルイズは首をふる。 「違うのよ。その後、アンタが本当は人間だって知って…」 ためらいながらルイズが口を開く。 「私ね、ガッカリしたの………それだけじゃないわ。 もうあんたは人間って言えないんじゃないか?って。 だから私は平民を呼び出したわけじゃないって、そんな事も考えた。 自分でも嫌になって…貴族の食事をあげたりして、ごまかそうとして…」 育郎がルイズの顔を覗き込むと、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。 「でも、今日思い知らされたわ。 やっぱり魔法も使えない貴族なんて駄目なんだって。 王様だってそうなのよ、私なんて…」 そう言って、ルイズは頭から毛布を被った。 「ルイズ…僕にはこの世界の貴族の事はよくわからない。 だから君が貴族に相応しいかどうかはわからない… けど君はいい子だ。それぐらいなら僕にもわかる」 「…どうして?」 ルイズの小さな声が育郎の耳に届く。 「ギーシュと決闘した時、君は止めても言う事を聞かなかった僕に怒ったよね」 「…それがどうしたの?」 「それでも君は、僕を心配して、デルフを持ってきてくれたじゃないか」 「だって、私の使い魔だから…」 育郎が首を振る。 「関係ない。君はそういう人間なんだ。 それは僕に今の話をしてくれた事でもわかる。自分の嫌な部分を見つめて、 人に話せるのは、君が立派な人間を目指しているからだろう? その『意思』を忘れなければ、きっとたどり着ける… 少なくとも、一歩一歩近づくことはできる…違うかい?」 育郎の方を向き、毛布から少し顔を出すルイズ。 「でも、私は魔法が使えない…」 「ルイズ、君が目指す貴族は、魔法が使えればそれでいいのかい? 君のお姉さん達を、君は魔法が使えるから尊敬しているのかい?」 「違う…皆に尊敬される、立派な貴族だから」 育郎が微笑む。 「ほら、それを忘れなければ、きっと大丈夫」 しばらく育郎を見て、ルイズはゆっくりと口を開いた。 「…本当にそう思う?」 「ああ。君は大好きなお姉さん達みたいになりたいんだろう?」 「うん………あ、でも…エレオノールお姉さまはちょっと嫌い… だって意地悪なんだもん。私のことちびルイズなんて呼ぶのよ? おちびおちびー…ってなに笑ってるのよあんた!」 起き上がり、真っ赤な顔になって怒るルイズ。 育郎としては、想像したらずいぶんほほえましい光景だったので、思わず笑みが 浮かんでしまっただけなのだが。 「い、いや…ほら、そのお姉さんは君の事が可愛いんだよ、きっと。 そうだ、もう一人のお姉さんはどんな人なんだい?」 「え?えっと、ちい姉…カトレアお姉さまはとっても優くて、怒られた私を励まして くれたり、動物と仲が良かったり。でも生まれつき身体が弱くて…」 「ひょっとして、ルイズの家に行くのは…」 「うん。タバサの話を聞いて、もしかしたらお姉さまも治せるんじゃないかなって」 「そうか…」 育郎の脳裏に、治せなかったタバサの母の姿が浮かぶ。 「あ、その…そうだ!イクローも何か話してよ!」 それを察したルイズは、なんとか話題を変えようとする。 「僕の?」 「そうよ、えっと…元の世界で一緒に逃げてた女の子の話とか! どんな子だったの?ひょっとしてあんたの恋人とか…」 「スミレが?まさか!あの子はタバサよりも歳は下だよ」 「セイヤァァァァァァ!!! はぁ…はぁ… おじいさん!次のマキは?」 「い、いや。十分じゃから、もうマキ割りはせんでも…すこし休んだらどうじゃ?」 「………うん、そうするわ」 「なあばあさんや、ずいぶん機嫌がわるいようじゃが…なんぞあったのかのう?」 「女の子はいろいろありますからねぇ…」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1645.html
ワルドが、目当ての階段を見つけたらしく、駆け上り始めた。 木でできた階段はどうも安定が悪い。眼下にラ・ロシェールの明かりが見えるが、 生憎とセッコは夜景を楽しむような繊細な神経は持ってないし、そんな時間も今はないのであった。 ふと、不自然な足音に気づく。 「なあー」 それに気づいているのかいないのか、ワルドが久々に口を開いた。 「なんだね?」 「なんか追われてるぜえ。」 「ふむ」 ちょっと見てくるかなあ。 「あ、おい!」 制止するワルドをとりあえず無視して、デルフリンガーを抜き階段を少し下りると、足音が消えた。 ・・・あれえ?確かに、間違いなく音がしたんだがなあ。 「きゃあ!」 上でルイズの悲鳴が聞こえる。 もしかして途中から飛びやがったかあ? あわてて戻ると、ルイズを掴んだ仮面の男とワルドが向かいあっていた。 ルイズごと切り殺すわけには・・・いかねえよなあ、いくらなんでも。 殴るか。幸いにして男はオレに背中を向けている。 「・・・ソル・ラ・ウィンデ」 その時、ちょうど完成していたワルドの呪文が、仮面の男とルイズとセッコをまとめて吹き飛ばした。 「きゃあ!」 「なあああああ!」 「・・・」 うおああ、切るのをためらったオレがバカみてえじゃねえか! セッコは階段に手を突っ込みあわてて這い上がった。 男は手すりを掴んで持ちこたえた。 はるか下へと落ちていくルイズをワルドが急降下してキャッチした。 足場の不安定な階段の上で仮面の男とセッコは睨み合う。 男が低く、低く呪文を唱え始めた。ひんやりとした空気が流れだす。 「相棒!構えろ!」 デルフリンガーが叫ぶ。 「ああ?」 空気が震え、何かが光る。 何だあ、電気か?! えと、ええと、雷は、どんなのによく落ちるんだっけ、細長い、金属? け、剣持ってたら絶対やべえ! セッコは、デルフリンガーから慌てて手を離した。 「これはライトニングクラUGYAAAAAAAAAAAAAA!」 稲妻がデルフリンガーを直撃し、閃光で辺りが突然昼間のように明るくなった。 「あ、危ねえ!目が、目がああ!」 畜生、目がちかちかする、奴はどこへ行きやがった?よく見えねえ・・・ 「デル・イル・・・」 さっきと同じ声で低い詠唱が聞こえてくる。いつの間に上に? 距離約3メートル。いや、メイル、だっけなあ。 この程度よお、武器無しでもひとっとびだぜ! 「くらえっ!」 「きゃあああ!」 あ、あれえ、ルイズの悲鳴? 「・・・ラ・ウィンでえええええええ!な、何をするガンダールヴ!」 なん・・・でだッ!!なんでワルドと間違えちまったんだ?! 「すまねえルイズ、目がくらんで間違えた。」 「何やってんのよ馬鹿!」 「落ち着きたまえ、賊なら逃げたぞ」 「うう。」 うぐぐ・・・オレが声を聞き違えるなんて畜生。 そうだ、デルフリンガーを拾わねえと。 セッコはようやく視力が戻ってきた目をこすりながら階段を下りた。 おお、あったあった。 「ちょっと痛かったぜ相棒・・・」 デルフリンガーが不満そうに呟いた。 「我慢しろよお。それに、今ので錆が取れたんじゃねえか?」 「そんな気もしなくもねえが、俺様を放り出すのはなるべくやめてくれ」 「そうか。」 話しているとワルドが興味深げに近づいてきた。 「さっきの呪文は[ライトニング・クラウド]。風系統の強力な呪文だな」 「ふうん。」 「しかし変だな、人は当然としても少々の固定化がかかった武器程度、軽く黒焦げにするぐらいの威力があるはずなんだが」 怖ええ、直撃しなくて本当によかったぜ。 「この剣、無傷に見えるな。一体何でできてるんだ?」 「知らん、忘れた」 デルフリンガーが答える。 「ふむ、インテリジェンスソードねえ。とりあえず賊は去ったし、次が来ないうちに登ろうか」 階段を上りきった先に、一本の枝が橋のように伸びていた。それに一艘の船が貼り付いている。羽みたいなものがついている以外は帆船だ。 ワルドたちが船上に現れると、甲板で寝込んでいた船員が起き上がった。 「な、なんでぇ?おめぇら!」 「船長はいるか?」 ワルドが杖を抜いて脅すように言うと、船員はすっ飛んでいった。 しばらくして、帽子を被った船長らしき初老の男が戻ってくる。 「なんの御用ですかな?」 「女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。アルビオンに今すぐ出航してもらいたい」 船長の目が丸くなる。 「無茶いわねえでください、今出たら風石が足りなくなって落っこちますぜ!」 「足りぬ分は、僕が補う。僕は[風]のスクウェアだ」 「まあ、料金さえはずんでくれるならかまいませんが・・・」 「僕ら以外の積荷はなんだね?」 「硫黄で。戦時中のアルビオンでは火薬や火の秘薬の材料として、黄金並みの値段がつきやすんでね。 特に革命中の貴族の方々は気前がいいでさあ」 「ふむ、ではその運賃と同額出そうじゃないか。」 商談成立。船長はにやりと笑って命令を下した。 「出航だ!急げ!」 帆が風を受け、船が動き出す。 「アルビオンには何時着く?」 ワルドが船長に尋ねる。 「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着しまさあ」 「本当にこんなのが飛ぶんだなあ。燃料はなんなんだ?」 「風石だぜ、相棒」 「なんだそりゃ?」 「説明するのめんどくせ」 「使えねーなあ。」 デルフリンガーと会話しつつ甲板をうろうろしていたセッコに、ルイズが話しかけてきた。 「ねえセッコ、抜き身の剣を持ったままうろつくのはやめない?」 「なんかまずいかあ?」 「周りを見てみなさいよ」 「うあ?」 言われて見回すと、船員たちが露骨に警戒してこっちを見てやがる。 渋々デルフリンガーを鞘に収めた。 そんな二人の下へ、ワルドが寄ってきた。 「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は包囲されているようだ」 ルイズが不安そうに呟いた。 「ウェールズ皇太子は?」 「わからん、生きてはいるようだが・・・」 思ったより更に状況が悪いみてえだ。 「それって、連絡不能なんじゃねえか?」 「陣中突破しかあるまいな、スカボローからニューカッスルまで馬で一日だ」 また馬かよお。 「グリフォンだっけ、あれはどうなんだ。」 ルイズが横から口を挟む。 「馬鹿ね、撃ち落とされちゃうわよ」 あー、そうだった・・・ 「ヴェルダンデが居れば楽勝なのによお。」 「いないものはどうしようもあるまい、着くのは昼だ。少し休もう」 船員たちの大声とまぶしい光で、セッコは目を覚ました。抜けるような青空が広がっている。 「アルビオンが見えたぞー!」 起き上がると、異常な光景が目に飛び込んできた。 「な、なななな、なあああ?!」 目の前に、空中に巨大な何かが浮いている。・・・島、いや大陸かあ? 「驚いた?セッコ、これが白の国アルビオンよ」 近くにいたルイズが声をかけてきた。 驚いたなんてもんじゃねえだろう。なんつう非常識な。 「これが月に何度かこの近くに来るのよ。雨を伴ってね」 浮いてるだけでもどうかと思うのに、動くのかよ。 「うああ・・・」 ぽかんと口を開けていると、見張りの船員が突然声を上げた。 「右舷上方の雲の中より船が接近してきます!」 セッコはそっちを見て呟いた。 「なんだ、普通の武器もあんじゃねえか」 舷側から、十数門の大砲が突き出していた。 横を見ると、ルイズが凄い表情で固まっている。なんでだ? 「旗が掲げられていません!空賊、空賊だああ!」 船員が叫んでいる。空賊、ねえ。 眺めている間にも横付けされた大きな船からぞろぞろと賊が降りてくる。 「ははは、なんと硫黄が積んであるらしいぞ!船ごと全部いただきだぜ!」 むさくるしい男たちが歓声を上げている。 「なあ、これって任務終了じゃねえか?どうにかなんの?」 セッコはルイズの隣にいたワルドに声をかけてみた。 「まあ、いきなり殺されることはあるまい。様子を見るしかないな」 この船に潜って隠れとこうかなあ? いや、ダメだ。 ルイズを放置することになるし、船ごと大砲で撃ち落とされたらどうしようもねえ・・・うう、まだ死にたくねえ・・・。 セッコが生き延びる方法を考えていると、賊のリーダーらしきいかつい男が近づいてきた。 そしてワルドとルイズの方を向き、上から下まで穴が開くほど眺める。 「おや、貴族の客も乗せてるのか。こりゃあ身代金がたんまりもらえるだろうぜ。てめえら!こいつらを運びな!」 ワルドは渋い表情を浮かべ、ルイズは男たちをにらみつけた。 セッコは満面の笑みをこぼしそうになるのを必死にこらえた。外からだと、泣いているように見えたかもしれない。 とりあえず、この場をしのげることは確定したみてえだなあ。 背中のデルフリンガーがセッコの心中を代弁するかのごとくカタカタと揺れた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/149.html
ルイズはニヤニヤしながら自分の使い魔の背中を見送った。 ルイズには考えがあった。 どうせ怒りのやり場を失っているギーシュは、DIOに決闘を申し込んで憂さを晴らそうとするに決まっている。 平民が貴族に勝てるわけがないという前提がその根拠だ。 しかし、ルイズにとっては、DIOがギーシュに勝とうが負けようがどうでもよかった。 DIOがギーシュに勝てば……それでいい。 自分は何もする必要がない。 ただ、DIOがギーシュを殺そうとしたなら、それを止めればいいだけだ。 万一DIOが逆らっても、強制執行してしまえばいい。 気絶してでも。 それは別にいい。 DIOがメイジに勝つほどの強さを秘めているのなら、それくらいの覚悟はしよう。 そしてもしDIOが負けたなら、ルイズはDIOを吹き飛ばすつもりだった。 所詮カリスマだけの使い魔なら、ルイズは用はなかった。 ルイズが求めるのは、真に力を持つ使い魔だ。 ギーシュ程度におくれをとるなら、問答無用で吹き飛ばして、改めてサモン・サーヴァントを行えばいい。 『ゼロ』と呼ばれることには変わりないけど、少なくとも安穏とした生活が戻ってくる。 『旧い使い魔を殺せば、新しい使い魔を召喚できる』 これはルールだった。 つまり、どう転ぼうがルイズに損はないのだ。 ルイズは、自分がDIOを吹き飛ばして、粉々の肉片にする様を想像して、ウットリした。 正直に言うと、どちらかというとルイズはDIOに負けてほしかったのだった。 だが、ルイズにとっての目下の問題は、これから起こる決闘の行く末ではなく、目の前に置かれているワインだった。 ルイズはDIOが飲み残した、アルビオン産のワインボトルに手を伸ばした。 一口飲む。 実に旨かった。 ギーシュは、突如後ろからメイドの両肩に手を乗せた男に、鋭い視線を向けた。 メイドが振り向いて一言「DIO様」と呟いた。 DIOはシエスタの肩に手を置いたまま、ギーシュに言った。 「『君が軽率に…香水の瓶なんか落としてくれたおかげで…二人のレディと、私のメイドの名誉が傷ついた。……どうしてくれるんだね?』」 DIOはクックッと笑った。 明らかに先ほどのギーシュの言葉に対する当てつけだった。 ギーシュの取り巻きが、どっと笑った。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔が、屈辱で真っ赤に染まった。 「ふん……!お前は確か、平民だったな。あの『ゼロ』が呼び出したっていう」 ギーシュはルイズの方をチラと見た。 ルイズはワインを飲んでいた。 いい具合にほろ酔いなルイズは幸せそうだった。 こちらを全く気にした様子もないことが、ギーシュの癪に障った。 「そろいもそろって、貴族に対する礼儀を知らない奴らだ。 君たちのようなものを野放しにしたら、我々貴族の沽券に関わる!」 自分はともかく、己の主をこき下ろされて、シエスタの目が怒りに染まった。 ギロリと睨みつけてくるシエスタに、ギーシュは思わず気圧された。 「だとしたら、どうするかね…?」 DIOはシエスタを抱き寄せながら言った。 シエスタの顔が嬉しそうにほぅと和らいだ。 ギーシュはそんな二人にますます顔を赤くし、マントを翻して言い放った。 「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」 DIOはギーシュに分からぬようにほくそ笑んだ。 「ヴェストリの広場で待っている。 いつでも来たまえ」 ギーシュの取り巻きが、わくわくした顔で立ち上がり、ギーシュを追った。 ギーシュの姿が見えなくなると、DIOはシエスタを放した。 シエスタはその場に畏まった。 「申し訳ありません、DIO様! 私が至らぬばかりに、DIO様にとんでもないご迷惑を…!」 「シエスタは自分の仕事をしただけだ。 気にするな」 「あぁ、DIO様。御慈悲に感謝いたします……!」 さっきのギーシュに対する謝罪とは全然違うシエスタの態度に、ルイズは笑いを堪えきれなかった。 クスクス笑っているルイズの席の方へ、DIOは戻っていった。 シエスタはしずしずと彼に従った。 ルイズは、決闘になることは分かっていたが、それをDIOの方からけしかけていたことが、不思議だった。 ルイズは笑いながらDIOに聞いた。 「どうしたのよ?自分からふっかけるなんて。 キャラじゃないわよ?」 ルイズの問いに答える前に、DIOは空になったグラスにワインを注ごうとボトルを傾けた。 が、何もでてこない。 DIOははぁ、とため息をつき、ルイズを見た。 ルイズはチシャ猫のような、してやったりの表情を浮かべていた。 「……君の話と、さっきの授業で、この世界の魔法という技術体系は概ね把握したつもりだ。 私はそれを身をもって知る必要がある。 そしてもう一つ……」 ルイズは微笑みながら先を促した。 「私の『スタンド』の回復具合のチェックだ」 聞き慣れない単語に、ルイズは首を捻ったが、ようは自分の実力試しをするつもりなのだろうと結論した。 「まぁ、別にアンタの意図はどうでもいいわ。 でも……」 途端に、ルイズの笑顔がピタリと消えた。 さっきまでの微笑みが嘘のような無表情だ。 ルイズはDIOの目を覗き込んだ。 「でも、さっきアイツは私のことを『ゼロ』と呼んだわ」 DIOは何も言わない。ルイズは続ける。 「もし…アンタがギーシュに勝ったら、構わないわ……そのままギーシュを殺しなさい」 許可でも懇願でもない、冷徹な命令だった。 「だが…色々と問題があるんじゃないか?」 そういうDIOに、ルイズは一転して笑顔になり、杖を取り出した。 「あら、大丈夫よ。粉々に吹っ飛ばすから。 それに、使い魔の責任は、御主人様の責任よ?」ルイズは笑顔で言った。 ルイズの杖が"ミシッ"と音を立てた。 今にもへし折れそうだ。 DIOは一言「おぉ、コワい」と言った。 しかし、言葉とは裏腹に、DIOの顔には笑みが浮かんでいた。 「そう?これでも最初は死人沙汰は避けようと思って『いた』のよ?」 ルイズはDIOからちょろまかしたワインの最後を飲み干した。 どうやら彼女は、まだあの授業の時にからかわれたことを根に持っているようだった。 「で、これからどうするの?すぐにヴェストリ広場まで行く?」 そう聞いてくるルイズに、DIOはかぶりを振った。 「いや、これから少し厨房に寄る。色々と入り用のものがある」 ルイズはそれまで一度も 厨房に入ったことがなかったので、興味をそそられた。 ついて行くと言うルイズを、DIOは無言で承諾した。 「DIO様、ミス・ヴァリエール、どうぞこちらへ」 シエスタの案内で厨房についたルイズは、予想外にごちゃごちゃしている様子に眉をひそめた。 こんな汚い場所に、何の用があるというのだろうか。 すると、奥で鍋をふるっていた男がこちらに気づき、ドスドスと音を立てて近づいてきた。 「おぅ、誰かと思ったら、DIOじゃねぇか!」 そう叫んでDIOを歓迎したのは、料理長のマルトーであった。 DIOにワインを振る舞った人物である。 彼は平民なのだが、魔法学院の料理長ともなれば、その収入は身分の低い貴族なんかは及びもつかなく、羽振りはいい。 そしてマルトーは、そんな裕福な平民の多分に漏れず、貴族と魔法を毛嫌いしていた。 シエスタは二人の邪魔にならないように、少し離れた場所に控えた。 豪快なマルトーの態度だが、意外にもDIOは気にせず答えた。 「やぁマルトー。君のイタズラは、どうやら大成功のようだったな」 マルトーはそれを聞くと、喜びと苛つきが混ざったような矛盾した顔をした。 ルイズはわけがわからず二人の顔を交互に見やった。 「ハンッ、それみたことか! 貴族の連中め、散々っぱら威張り散らすくせに、味の違いもわからねぇときたもんだ。恐れ入るぜぃ!」 そういうと同時に、マルトーがルイズに顔を向けた。 「誰でぇ?貴族様がこんなところに、何か用かい?」 「彼女は、私のご主人様だよ、マルトー。 ルイズ、という」 DIOがそういうと、マルトーはその大きな目をさらに大きく見開いて、ルイズを見た。 そして、大声で笑いだした。 「ブッハハハハ! ご主人様!?この小娘が?お前さんの?冗談きっついぜおい!」 ガハハと笑うマルトーに、DIOは低い声で言った。 「ルイズは、君のイタズラに気付いていたぞ?」 マルトーの笑いがピタリと止まった。 そして、しげしげとルイズを眺め回した。 その視線を不快に感じて、ルイズは一歩退いた。 「何よ、さっぱり話が見えないんだけど!? 説明しなさいよ!」 マルトーは頭にかぶっている大きな帽子をかぶりなおした。 「……俺は貴族が嫌ぇだ。奴らは口を開けばやれ魔法だの、やれ貴族の教養だのとぬかしやがるからな。 だから、俺はチョイと試してみたくなったのさ」 ルイズは未だに話が見えず、首をかしげた。 「俺は今日の生徒の昼食にだすワインを、普通の庶民が飲むような安物にすり替えてやったわけよ。お嬢ちゃんは気づいたみてえだがな」 ルイズはハッとした。 あのワインはそういうことだったのか。 貴族である自分を試されたと言う事実と、一口とはいえ、安物を飲まされたという事実に、ルイズは腹を立てた。 そんなルイズを見て、マルトーは反論した。 「お怒りのようだがよ、お嬢ちゃん。あんたの周りに気づいた奴がいたか?これっぽっちでも、怪しんだ奴がいたか?」 ルイズは言葉に窮した。誰も少しもおかしいと思っていなかったのは事実だ。 「おたくらが豪語する貴族の教養ってのは、所詮そんなもんなんだよ。 その点、DIOは本物だ。こいつは違いが分かる奴だ。こいつに飲まれたあのアルビオンのワインは幸せものってやつよ」 ルイズは何も言い返せなかった。 「だが、あれに気づいたお嬢ちゃんも、てえしたもんだ。 次からは、お嬢ちゃんにも他の奴らよりチョイと良いヤツを出してやるよ」 ルイズは何だか納得がいかなかったが、相手が料理長ということもあり、その場は矛を収めた。 「ところで、マルトー。……頼みがあるんだが」 話の区切りを見たDIOは、自分の用事に入った。 自分には関係ない話だと思い、ルイズはその場を離れた。 ふと横を見ると、シエスタがこちらをじーっと見つめていた。 「……何よ?何か用?」 「いえ、何も、ミス・ヴァリエール」 それっきり、シエスタは視線を逸らした。 そんなシエスタの態度にルイズが居心地の悪さを感じていると、DIOがルイズの方に戻ってきた。 話は終わったようだ。 シエスタがDIOに深くお辞儀した。 「で、一体何の用だったわけ?」 とりあえずルイズは聞いた。 「……ちょっとした借り物だ」 DIOは答をはぐらかしたが、ルイズはそれ以上追及しなかった。 「では、ヴェストリ広場とやらに向かうとするか。 シエスタ、案内しろ」 シエスタはかしこまりましたと言った。 ルイズはマルトーの言葉の意味を深く考えていた。 to be continued…… 22へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1549.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 帰る手がかりの一つもつかめぬまま、既にこちらに来て一週間が過ぎた。 一週間もすれば、不本意ながらもこちらの生活にも慣れてくる。 朝起きて、才人共にルイズを起こし、才人が着替えさせている間に、僕が洗い物を済ませる。 僕はスタンドを使えば、いちいち水くみ場まで降りる必要もないので、適任であるのは事実だが、コレには理由がある。 はじめは交代交代で洗濯を行う予定であったが、才人がパンツの紐を切ったのがばれ、洗濯は僕が一手に担うこととなったのだ。 ちなみにこの事で、才人は一週間のご飯抜き、僕も止めなかったということで、五日のご飯抜きを宣告された。 もっともそんなことをされても、ルイズの朝食中に厨房でご飯を貰うので、全く関係がないのだが。 しかし衣食住の、住しか面倒を見ていない、しかもその住ですら怪しいのに、「ご主人様」と呼べ、敬いが足りないとは、理不尽甚だしい。僕のルイズ株は下がりに下がって、既に上場廃止状態だ。 そういう事で僕らは自然と、厨房との親交、つまりはマルトーさん達コックや、シエスタ達メイドとの親交が深まっていくのだが。 既に厨房に来る一通りの人間には、顔を覚えて貰っている状態だ。 一部の人間とは、仲良く会話を交わせるまでに至っている。 食事の後は、才人はルイズと共に授業へと、僕は血管針カルテットと共に衛兵として、見回りに当たる。 見回りといっても、侵入者に備えるなどではなく、生徒同士のもめごとの報告、出来るのならばその場を押さえる事や、魔法関係以外の備品の整理、人手が足りない所の手伝い、貴族の使いっ走りが主な仕事内容だ。 そのため貴族と接触する機会が多く、しかも殆どの貴族が高慢不遜な奴ばかりなので、極めてストレスが溜まる。 御陰でもめごとの仲裁にはつい力が入って、スタンド大活躍だ。何回貴族に向けて、『エメラルド・スプラッシュ』を放ったことか。 衛兵の仕事が再会して早三日目で、僕の前でもめごとを起こしたり、面と向かって罵倒するものは、ほぼ皆無となった。 さて、衛兵の仕事が終われば、僕も才人と同じように、ルイズの世話に戻る。 この時間が、一番トラブルに巻き込まれやすい時間だ。 この間は衛兵の仕事をしている時と違い、貴族に手を出せば、以前と同じく謹慎処分を受ける。 それを知ってか、ここぞとばかりに嫌がらせをしてくる。 もっともそういうことをする、臆病者の嫌がらせなんて、大したことのない罵倒程度なのだが。 適当にデルフリンガーを持った才人をけしかければ、あっという間に大人しくなる。 表向きな立場を持たない才人は、僕と違って、倒しても咎められることもないからな。 こちらに来て一週間。既に僕の平穏を乱す相手はルイズ、才人、そしてキュルケの三人のみだ。 ルイズは言わずもがな、あの癇癪持ちの自称ご主人様にかなう相手はいない。 才人は非常に優秀なトラブルメーカーだ。たいていの場合、僕まで連座で罰を受けるので、迷惑きわまりない。 この二人に比べれば、ルイズと混ぜない限り、たいした問題にならないキュルケは一段落ちる、はずだったのだが、最近になって、一つ問題が出てきた。 キュルケが才人に対して誘惑を敢行した事だ。 七股に挑戦するとは、見上げた根性だと思う。 変節をする人間は嫌いだが、ここまで来ると嫌おうという気すら起きず、返ってほほえましく感じる。 いや、そもそも変節しているわけではないな。一応、『微熱』とやらの二つ名の筋は通しているのか。 多分、相手も火遊び程度で、本気で誘惑するつもりは無いようにも思うのだが、どうか。 それはともかく、この劣悪な上、慣れない状況で、僕らが持ったのは一週間持ったのはやはり一重に、お風呂という存在があったからであろう。 お風呂は心の洗濯とは、誰が言い出したのか。 この異世界に於いて、この言葉は、非常に実感できる重みがあった。 そのため、お風呂のコンディションは常に万全を期しておかなければならない。 特に、放っておけば崩れてくる竈の整備などは、絶対に欠かしてはいけない。 本日の分の仕事を終えた僕は、今日もいつものように竈の様子を見に行った。 その途上、広場で思いがけない人影を見る。 「あれは……」 「よしよし、ヴェルダンテ。君はいつ見ても可愛いね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 あの金髪。気取った雰囲気。間違いない、ギーシュだ。 だが、よく見れば何か、そのギーシュに抱えられて、大きな影がもう一つ。 こちらからはよく見えないが、サイズは小熊ぐらいはある。いったい何だろうか。 僕は後ろから息を潜めて、気付かれぬよう慎重に、ギーシュへと近づいた。 影の正体は巨大な土竜であった。 その土竜はギーシュの言葉に、鼻をモグモグとひくつかせている。 どうやらコレがギーシュの使い魔らしい。 僕はその姿をよく観察する。 「そうかい、そりゃよかった!」 成る程、くるくるとした目、綺麗な毛並み、可愛らしいという形容詞も、間違いではないように思う。 しかしながら、その土竜に頬ずりをするギーシュの様は、僕には非常に滑稽なものにしか見えない。 ともかく僕はギーシュに用があるので、土竜と離れるタイミングを狙って、後ろから声をかける。 「ギーシュ」 「誰だい? 僕を呼ぶの……は……」 あの決闘の日以来、ギーシュは僕の顔を見ると一目散に逃げ出すため、半径10m内に入れた試しがない。 だが、今の僕とギーシュの距離は1mもない。 ギーシュは僕の接近を許したことで、バカみたいにポカンと口を開ける。 そして状況を認識するや否や、いつも通り、脱兎の如く逃げ出した。 しかし、今回は逃がすわけには行かない。 僕はスタンドで、ギーシュの身体を一瞬にして縛り上げる。 「う、動けない!」 「そんなゲロ吐くぐらい怖がらなくても良いじゃないですか。何もしませんよ、安心してください」 「う、嘘だ。僕は騙されないぞっ!」 参ったな。ギーシュは完全におびえきった目でこちらを見ている。 少し、決闘の時にボコボコにしすぎたのかもしれない。 「だ、誰か助けっ……むがっ!」 「静かにしてください」 「むー! むー!」 騒がれてはマズイので、スタンドを猿ぐつわ代わりにして、ギーシュを黙らせる。 僕は仕方なく、ギーシュが落ち着くまで待つことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「本当に、危害を加えるつもりはないのかい?」 「ええ。そちらから何もしてこない限りは」 「わかったよ」 10分程して、ようやくギーシュは騒ぐのを止め、僕の話に耳を傾け出した。 これで、ようやく会話が出来るのか。 「それで、一体何の用なんだい?」 とはいえ、まだ少々警戒しているようだ。 ギーシュは何を考えているのか探りを入れる目で、こちらを見ている。 この状態で、いきなりお願いを切り出す訳にもいかない。 僕は無難に、先程の使い魔らしき土竜の話を切り出すことにした。 「いえ、あなたが土竜と戯れていましたので、何事かと思いまして」 「土竜? ああ、僕の使い魔のヴェルダンテの事かい?」 多少だが、ギーシュの表情が和らいだ。 この話題を切り出したのは正解かもしれない。 「ヴェルダンテというんですか。凄く可愛らしいですね」 「君もそう思うのかい!」 この後、ギーシュによる20分にも渡る使い魔自慢が繰り広げられると解っていれば、僕はこんな事を切り出そうとは思わなかっただろう。 「ヴェルダンテが…… ヴェルダンテは…… ヴェルダンテ。ああ、ヴェルダンテ、ヴェルダンテ……」 既に何回、ヴェルダンテという言葉を聞いただろうか? 学校では優等生として振る舞っていたので、形だけではあるが、人の話を聞くのはうまいと思う。 その僕が、心の底から止めてくれ、と思ったのだ。 もはや、語るには及ばないだろう。 「……というわけなのさ。どうだい、凄いだろう?」 「……ええ、本当に」 僕はよく耐えました。と続けたい所をぐっと我慢し、大きく息をつく。 まぁ、それだけ耐えたこともあって、ギーシュの僕に対する警戒心は、今は殆ど感じられない。 「ああ、済まないね、長々と話してしまったよ。っと、そういえば君はどうしてこんな所にいるんだい?」 「あちらにある、お風呂を修繕しようと思いまして」 そういって僕は広場の角の、僕と才人で制作した風呂場を指さす。 とはいっても巨大な鍋と、土で出来た竈に、申し訳程度の衝立があるだけなのだが。 ギーシュは興味深そうに、それをまじまじと眺める。 「平民も水の張ったお風呂につかるのかい?」 「いえ、コレは五右衛門風呂といいまして、僕や才人の故郷のお風呂です」 「へぇ、君たちの故郷は、その服装といい、随分変わったところなんだな」 ギーシュは特に、それ以上聞こうとせず、作ったお風呂をまじまじと見ている。 が、やがて興味を失ったのか、再び僕の方へと向き直った。 と、今度は僕の制服のポケットの辺りをじーっと見ている。 確か今、ポケットの中には石けんの香りつけに使おうと思っている、ムラサキヨモギが入っていたな。 ギーシュはいったん口元に手を当て、改めて僕のポケットを指さしていう。 「それはムラサキヨモギの葉かい? できればいくつか譲って欲しいんだが」 「これを、ですか?」 「ああ、代金は払うよ。そのポケットに入っている、半分ぐらいの量で良いんだ」 コレは思いがけない交換材料が出来た。 正直、どうやって頼もうかと思っていた所だ。 これならば僕の方からも切り出しやすい。 「お金はいりませんが、代わりにこの竈を、青銅に錬金してもらえますか?」 「それでいいのかい? なら、おやすい御用さ」 そういってギーシュは、ポケットから薔薇の造花を抜いて、短くルーンを唱える。 すると土の竈は見る見るうちに、赤銅色へと染まっていく。 ものの数秒で、竈は見事な青銅製へと変化した。 僕は改めて見るその魔法の便利さに、素直に感嘆の声をあげる。 スタンド能力には余りそういうものはないからな。 ギーシュはその声を聞いて、得意げに鼻を鳴らす。 「それでは、コレを」 「ああ、確かに貰ったよ」 僕は約束通り、右ポケットの方に入っていたムラサキヨモギの半分を、ギーシュに手渡した。 ギーシュはそれを受け取って、「これでモンモランシーとの仲直りの材料が出来た」等とつぶやいて、ご機嫌な様子で校舎の方へと戻っていった。 何に使うつもりかは知らないが、大方、香油か何かを作るつもりだろう。 それはともかく、これで竈に関しては問題ないだろう。 となれば、後はもう一つの予定である石けん造りだ。 本当であれば、先に石けんをつくってから、才人が来るのを待って竈の修繕を行うつもりだったが、ギーシュとあったことで、この分ならば、才人が来る前に終わらせられそうである。 僕は早速、調理場で貰った海草の灰と廃品の鍋、植物性の油、そしてムラサキヨモギを使って、石けん造りへと取りかかるのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/535.html
いまだに私に目を向けないマンモーニは金属…おそらく青銅…の人形を作り出した あれを操るらしいが、何も支持されていないのか、微動だにしない 私はこれ幸いと人形の横を擦り抜けて… 【逆に考える使い魔】 「僕は魔h「蹴り穿つ!」ぉつべらッ!?」 何をしたか? 簡単だ、容赦無く[コークスクリュー式ボディストレート]を叩き込んだ! 風車のように回転しながら水平に飛んでいくマンモーニ… お?気絶しなかったか!やるな! よし!マンモーニからフラレ虫に格上げしよう! 「ひ、卑怯な…」 フラレ虫が悔しそうに唸るが、相手にしない! 「馬鹿者!決闘者が相対した時点で闘いは始まっているのだ!」 うむ、格好良い!流石は私だ 「ところで…だ、君は私に『お仕置き』をする…と言っていたね…、それは無理な相談だな… だから 私が 君に 特別な 『お 仕 置 き』をしてやろう。」 左手のルーンが猛烈な光を放つ! ルーンから流れ込む知識に従い、私はズボンを脱ぎ捨て! バックステップ、バック転と続け様に距離をとり! 一転して一気に走り込み! フラレ虫に向かって大ジャンプ! 体を海老のように反り! そのまま強調された私の『ちまき』を --少々お待ち下さい-- 「ふ、虚しい勝利だ…」 青銅のギーシュ 第二~第五肋骨完全骨折 内蔵損傷 精神的苦痛により 再起不可能!(リタイア!) なに?なぜ私が強いのか気になる? 逆に考えるんだ、『実は私は義理の息子を瞬殺する力を隠していた』と考えるんだ